2014/04/29

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今日からインタビュアーはイルドゥに替わる。僕はだいぶ気が楽だ。通訳さんを通して内容を聞いて、最後に聞きたいことがあれば質問するという構成。40階段前で旅行会社を経営しているという男性と、コムタン店のオモニ、近場の雑貨屋で20-30代の店員と社長、etc。イルドゥもプロデューサーのジョンミョンさんの活動圏内なので簡単に人がつかまる。コムタン店のハルモニからは歴史問題に関する直接的な内容が飛び出してくるし、通りかかった店主はボソッと、対馬をもってこい、なんて吐き捨てていなくなったり、日本に対して多くの韓国人があまりいい印象を持っていない。それでも面白いのは、日本人は親切だとか、礼儀正しいとか、ここに来てくれるお客さんとも友人で日本に旅行した時に会って、お土産を交換するとか、他のインタビューでも日本人の人柄に対しては好印象を持っている韓国人がほとんどだったこと。日本人の方が国と国民のパーソナリティを短絡的に結びつける傾向があるかも知れない。日本でインタビューして印象に残っていた答えに、私たちは韓国の文化は大好きで仲良くしたいと思っているけれど、韓国人は日本人のことを嫌っているかも知れない、というものがあった。今日思いついて新しく加えた質問は、こういうインタビューを日本でもやって来たが、日本人は韓国人をどう思っていると思う?、だった。そうして韓国人から返ってきた答えのほとんどは、日本人は私たちのことを嫌っているだろう、とか、見下しているだろう、というものだった。こういう答えを予想して質問を考えたのだが、それは、このやりとりがまるで、お互いに想う意思を伝えることのできない恋人のようだと思ったからだった。日本と韓国は兄弟のようでもあるし、恋人のようでもある。僕はいつも文化的にはお姉さんという印象がある。その後アミドンという、昔日本人墓地だった街で一人のハルモニにインタビュー。今でも墓石や土台が残っていて、家や塀の一部になっている。今日のインタビューに参加した美術家のマンヨンさんはこの地域のアートプロジェクトに関わっていたらしく詳しく知っている。松島へ移動して、女学校でアポをとっている生徒が返ってくるまで待機する。ここはカトリック系の学校と、少し離れたところに宿舎があり、生徒の全員が生まれた時から親の顔を一度も見たことがないのだそう。孤児院のイメージとは全然違う近代的な建物だ。宿舎には男子トイレがないので、女子トイレを使わせてもらう。クリスチャンのジョンミョンさんがアポを取ってくれて、出演者もここから探すことになっている。シスターも交えて中学生四人に簡単な自己紹介をする。できれば四人全員に出演して欲しいと伝えると、シスターから、ダンサーを目指している高校生がいるから、その子も参加させて欲しい、と言われ、是非、と応える。通訳さんを通して作品の話や、日本のことを話すが、理解できない日本語を聞いている時間が彼女たちにはしんどかったかも知れない。一人の生徒が明らかにイライラし始める。これはいい経験になった。話せるようになる時間はないが、リハが始まるまでに少し話せるようなる必要がある。韓国語のフレーズを幾つか仕込もう。彼女たちにもインタビューをする。やはり歴史問題と、独島の話が出てくる。あまりにもメディアの報道そのままなので、僕は少しイライラして、そのニュースを自分で調べたことはあるか、これから調べようと思っているか、と聞いてみる。歴史問題に関して、僕は日本人であることを引き受ける必要があるし、そのつもりでいくらでも話を聞く覚悟がある。ただ領土問題に関しては、竹島、独島、名前はどちらでもいいが、あの島は日本領で不法に占拠しているのは韓国だと認識している。彼女たちと議論できるようになるだろうか。分かり合えなくても、違う、という前提で関係を持つことは出来るだろうか。インタビューが終わると、遊んでいた生徒が集まってきて、踊りを見せて欲しい、と言われたので披露する。ちょっといいところを見せようという気持ちがあって、まだまだだなー、と思う。もっと視線に負けるところから始めたい、リハーサルなしで。帰りのタクシーではイルドゥが不機嫌で、今日のインタビューが何の役に立つのかわからない、とか、ぶっきらぼうな応え方は釜山の気質だ、とか。これは日韓の話なのか、それとも釜山と福岡の話なのか、とか。いつものカフェに戻って撮影チームも交えて作戦会議。福岡も初日はよくなかった。僕はインタビュイーからどんな答えを聞きたいという期待はないし、今はまだわからないが、集まって見たら地図のようなものが見えるだろうと思う、とイルドゥに伝える。ほとんどジウンさんと僕がやりとりをしていてイルドゥは黙っていた。質問がよくないからではないか、ということになり、僕から提案したのは、教えてもらうという姿勢でインタビューするのはどうか、ということ。歴史を何も知らない日本人の若者を演じるとか、日本で小学生から集めた韓国への質問です、という前ふりからインタビューするとか。飲みの席で試しにカマをかけて、実は僕には六歳の息子がいて、彼が僕に聞くんだよ、韓国と北朝鮮はどうして同じ言葉を話すのに戦争をしているのって、そうやって聞いたら韓国チームが難しい顔をして考え始め、いつも適当なことしか言わないイルドゥも真面目に話し始めた。頃合いを見て、これは使えるんじゃないか、と種明かしをするとみんな呆れていて、次にイルドゥに、韓国で金持ちになるにはどうしたらいい、と聞いたら即、体を売れ、と返される。イルドゥは不機嫌。